部分モデル実験
 
■H形鋼を用いた部材における溶融亜鉛めっき割れ対策に関する検討(No.59)
概要

溶融亜鉛めっきによる割れは,構造形状,めっき作業条件,鋼材の成分,溶接時の残留応力等が相互に関連し合って発生すると考えられている。また,構造形状の中で,特にスカラップは割れが生じやすい部位として知られている。

そこで本稿では,実際の溶融亜鉛めっきの施工事例を基に,溶融亜鉛めっき時に割れが生じにくいスカラップの構造ディテールを検討した例を紹介する。検討では,数種類のスカラップ構造物について,鋼材の高温時の機械的性質を考慮した3次元FEMによる熱伝導−弾塑性熱応力連成解析によって,溶融亜鉛めっき時に発生する熱応力を推定し,溶融亜鉛めっき時に割れが生じにくいスカラップの構造ディテールを検討している。

 
■鋼構造物のめっき時のひずみメカニズムとその抑止(No.55)
概要

溶融亜鉛めっきは,部材の寸法,形状,構造などにより,事前に最適な溶融亜鉛めっき条件を選定しなければならない。そこで,コンピュータ解析によるシミュレーションを行うことで,最適な溶融亜鉛めっき条件を選定する手法を提案する。特に,本稿では以下の2例について紹介する。

  • 1) 大型鋼I桁のような大型構造部材に溶融亜鉛めっきを行う場合,鋼部材内に発生する温度分布差が大きくなる傾向にあるため,熱変形も大きくなる可能性がある。その熱変形を,様々な浸漬方法別に弾塑性熱応力解析を用いて算出し,熱変形の防止対策を検討する。
  • 2) 合成床版に用いる鋼板パネルに溶融亜鉛めっきを行う場合,鋼板内にどの程度の熱応力と熱変形とが発生するのか,また,その熱応力と熱変形とが鋼板の初期温度にどのように影響を受けるのかを解明するため,弾塑性熱応力解析を行い,その解析結果より熱応力を軽減させる対策を検討する。また,めっきによる鋼板の変位に関して,弾塑性熱応力解析結果と実測値との比較検討を行う。
 
■最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(6)(No.54)
概要

本報は前報デンロ技報No.53で掲載した「最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(5)」の続報である。

前報(No.53)では,溶融亜鉛めっき処理された山形鋼と鋼平板の溶接部の「めっき割れ」事例に基づき,鋼部材の溶融亜鉛浴面への浸漬方向に着目して,熱伝導解析および熱応力解析により「めっき割れ」のメカニズムを推定した。また,熱応力解析の結果,浸漬方向によって発生する熱応力を減少させる効果について紹介した。

本報では,溶融亜鉛めっき処理された鋼部材に発生した「めっき割れ」事例を取り上げ,大きさの異なる大小2つのスカラップを有する溶接H形鋼の鋼部材について,溶融亜鉛に浸漬する際の温度分布を,最適化手法によって求めた熱拡散率および熱伝達係数を用いて一次元熱伝導方程式から求める。次に,得られた温度分布を外力として三次元有限要素法により熱応力解析を行い,部分解析モデルに生じる熱応力分布を計算する。この2つの熱応力分布の結果を比較検討して,スカラップの大きさの違いによって発生する熱応力の違いについて紹介する。

また,これまでに紹介した「最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究」のまとめとして,本研究で得られた結論を基に,「めっき割れ」や熱ひずみの発生を抑制する対策について示す。

 
■最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(5)(No.53)
概要

本報は,前報デンロ技報No.52に掲載した「最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(4)」の続報である。

前報(No.52)では,最適化手法により求めた最適熱拡散率と最適熱伝達係数を用いて,熱伝導解析により温度分布を求め,同技報No.50で紹介した中型溶接鋼平板モデル試験と鋼平板モデル試験で得られた実測結果と比較検討を行った。また,得られた温度分布から熱ひずみを求め,実測結果と比較検討した。更に,三次元有限要素法により熱応力分布を求め,発生する熱応力の状態を検討した。

本報では,溶融亜鉛めっき処理された鋼構造物に発生した山形鋼と鋼平板の溶接部「めっき割れ」事例に基づき,熱伝導解析および熱応力解析を行って「めっき割れ」のメカニズムを検討した。その結果,溶融亜鉛浴面への浸漬方向によって,発生する熱応力を減少させる効果があることが明らかになった。

 
■最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(4)(No.52)
概要

本報は,前報デンロ技報No.51で掲載した「最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(3)」の続報である。

前報(No.51)では,溶融亜鉛に浸漬する際に試験体モデル内に生じる温度分布を求めるために用いる一次元熱伝導解析の解析理論と,溶融亜鉛浸漬試験の実測温度を一次元熱伝導方程式で再現するために用いた最適化手法について紹介した。

本報では,最適化手法により求めた最適熱拡散率と最適熱伝達係数を用いて,熱伝導解析を行うことにより温度分布を求め,No.50で紹介した中型溶接鋼平板モデル試験と鋼平板モデル試験から得られた実測結果との比較検討を行う。また,得られた温度分布から求めた熱ひずみについても,実測結果との比較検討を行う。さらに,三次元有限要素法により熱応力分布を求め,発生する熱応力の状態について紹介する。

 
■最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(3)(No.51)
概要

 本報は前報デンロ技報No.50で掲載した「最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(2)」の続報である。

本報では,前報で紹介した溶融亜鉛浸漬試験で得られた温度分布および熱ひずみを熱伝導解析および熱応力解析によって推定することを目的として研究した下記の理論や手法について紹介する。

  • (1) 溶融亜鉛に浸漬する際に試験体モデル内に生じる温度分布を求めるために用いる一次元熱伝導解析の解析理論
  • (2) 溶融亜鉛浸漬試験の実測温度を一次元熱伝導方程式で再現するために用いた最適化手法
 
■最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(2)(No.50)
概要

本報は前報で掲載した「最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(1)」の続報である。

溶融亜鉛めっき処理される鋼構造物に生じるめっき割れおよび熱ひずみのメカニズムを熱伝導解析および熱応力解析によって推定することを目的に,解析値と比較するデータを採取するため溶融亜鉛浸漬試験を行った。試験モデルとして,小型溶接鋼板モデル,中型溶接鋼板モデルおよび鋼平板モデルの3種類を作成した。

これらのモデルにおける温度分布や熱ひずみを実測した結果について紹介する。

 
■最適化手法を用いた鋼構造物の溶融亜鉛めっき中のめっき割れおよび熱ひずみのメカニズム解明に関する研究(1)(No.49)
概要

溶融亜鉛めっきは,鋼部材を約450℃前後の溶融亜鉛中へ浸漬させるため,急激な温度変化が与えられ,先に溶融亜鉛に浸漬する部分と後から浸漬する部分との間に温度差が生じ,鋼部材の内部に非定常熱応力が発生する。また,板厚の厚いものと薄いものを組み合わせた場合にも,板厚の違いにより温度差が発生する。溶接継手部が多く存在する場合には,この部材内での温度差が応力集中による大きな引張応力を発生させ,溶接の残留応力の影響とも合わせて溶接部のめっき割れ現象を引き起こす原因の一つとなる。

めっき割れの現象は,製品の寸法,形状,構造,溶接方法,残留応力,浸漬速度,液体金属脆化など種々の要因が,単独あるいは複合的に関連することによって発生すると考えられる。したがって,設計ディテール(板厚比の考慮,構造),鋼材の種類,浸漬方法などの適切な条件を選択することで,実用的にめっき割れを防止できるものと思われる。

本報では,著者等の研究成果をまとめた論文の中から,本研究の背景および目的や既往の研究,研究内容の総論と熱伝導解析および熱応力解析理論について述べている。各研究内容の詳細は,今後順次掲載する予定である。

 
■送電鉄塔のボルトの緩み対策(No.48)
概要

送電鉄塔のボルトは様々な要因により緩むことが考えられるため,ボルトの緩み・脱落防止対策が施されている。

ボルトの緩み・脱落防止対策には複数の方法があるため,緩みのメカニズムを調査するとともに,各種緩み防止金具を装着したモデルによる再現試験を実施し,有効な対策方法を検討した。

 
■超微小硬さ試験機を用いためっき鋼材の力学的特性の研究(No.47)
概要

鋼材に溶融亜鉛めっき処理した場合,通常の鋼材であれば力学的特性に影響を受けることは少ないが,一部の高張力鋼では座屈耐力が向上することが知られている。高張力鋼の座屈耐力が向上する理由として,溶融亜鉛めっき処理による熱処理の影響や硬さの変化などの複合的な要因があると考えられる。

本研究は,溶融亜鉛めっき処理した高張力鋼の力学的特性に影響を与える要因の一つとして,溶融亜鉛めっき処理時に鋼材表面に生成される鉄−亜鉛合金層(以下,合金層という)の硬さと働きについて着目した。これらを解明するために超微小硬さ試験機を用いて,軟鋼(SS400)と高張力鋼(STKT590・SM490)を基材として合金層の硬さを測定すると共に,軟鋼(SS400)と高張力鋼(SM490)の引張試験を行い,材料特性についてミクロおよびマクロの両面的な観点から考察を加えた結果以下の結論が得られた。

  • ナノ硬度計による溶融亜鉛めっきの合金層断面,鋼材表面近傍断面およびその境界の硬さの測定結果から,溶融亜鉛めっき処理で形成される合金層よりも鋼材の方が硬く,境界部は合金層および鋼材より硬くなることが分かった。
  • 材料引張試験の測定結果から,降伏応力と破断強度は溶融亜鉛めっき処理による加熱・冷却の影響により上昇することが分かった。


■増設基礎を用いた新改幹線鉄塔嵩上げ工法(No.46)
概要
 市街地や山林を通過する送電線路では,送電線下の建築物や樹木などが送電線路の建設当初よりも高くなり,送電線との離隔が不足することがある。
 このような問題の対策として,送電鉄塔の嵩上げ工事が一般的に行われている。現在採用されている一般的な嵩上げ工法は,嵩上げに伴う基礎反力の増加に対する既設基礎の補強が困難であることから,既設鉄塔と基礎の強度に裕度がある場合にのみ用いられており,裕度がない場合は鉄塔建替えで対応している。
 そこで,嵩上げ工法の適用範囲の拡大を図る観点から,強度に裕度がない場合でも既設設備(鉄塔やその基礎)を活用しながら,嵩上げに伴う強度不足を新たな基礎にも負担させる工法「増設基礎を用いた嵩上げ工法」を開発し,デンロ技報No.42で紹介した。
 187kV新改幹線鉄塔嵩上げ工事では,デンロ技報No.42で紹介した187kV阿南幹線鉄塔嵩上げ工事と同様に,必要な高さの嵩上げを行なうと既設基礎が強度不足となるため,増設基礎を用いた嵩上げ工法を採用することになった。
今回,増設基礎を用いた嵩上げ工法の採用に当り,増設脚取付け位置が前回の阿南幹線鉄塔と異なることから,既設基礎と増設基礎への荷重分担などの性能を再確認するために,実規模部分モデルによる静載荷試験を行って妥当性を確認した。また,基礎が不同変位した場合の鉄塔上部材への影響についても載荷試験により確認した。


■溶融亜鉛めっき割れに関する解析(No.45)
概要
 溶融亜鉛めっきは,鋼部材を約450℃前後の溶融亜鉛中へ浸漬させるため,急激な温度変化が与えられ,先に溶融亜鉛に浸漬する部分と後から浸漬する部分との間に温度差が生じ,鋼部材の内部に非定常熱応力が発生する。また,板厚の厚いものと薄いものを組み合わせた場合にも,板厚の違いにより温度差が発生する。溶接継手部が多く存在する場合には,この部材内での温度差が応力集中による大きな引張応力を発生させ,溶接の残留応力の影響とも合わせて溶接部のめっき割れ現象を引き起こす原因の一つとなる。
 めっき割れの現象は,製品の寸法,形状,構造,溶接方法,残留応力,浸漬速度,液体金属脆化など種々の要因が,単独あるいは複合的に関連することによって発生すると考えられる。したがって,設計ディテール(板厚比の考慮,構造),鋼材の種類,浸漬方法などの適切な条件を選択することで,実用的にめっき割れを防止できるものと思われる。
 本報では,山形鋼に溶接されたプレートのすみ肉溶接止端部のめっき割れの事例をもとに,めっき割れ付近の温度分布とそれに伴い発生する熱応力を求めるため,解析および検討を行ない,溶接部付近の熱応力の発生範囲を確認した。解析には,デンロ技報No.44で紹介している筆者等の研究成果である一次元熱伝導方程式の最適化手法を用いた。


■溶融亜鉛浸漬中の鋼平板に発生する温度変化と熱応力分布(No.44)
概要
 溶融亜鉛めっきは,鋼部材を約440〜450℃の溶融亜鉛中へ浸漬させて鉄−亜鉛の合金層を形成させ,鉄を腐食から守る処理のことである。鋼構造物に溶融亜鉛めっきを施工する場合,鋼部材が約440〜450℃の溶融亜鉛中に浸漬されるために急激な温度変化が与えられ,先に浸漬する部分と後から浸漬する部分との間に温度差が発生し,部材内に非定常熱応力が生じる。特に,大型の鋼構造物では,部材内に発生する温度分布の差は大きくなる傾向にあるため,それに伴って生じる熱応力も大きくなる。また,鋼材が高温のため降伏点が低下し,ひずみが大きくなるため,めっき後に残留変形が残ることもある。また,実際の残留変形は部材の冷却過程との関連付けが必要であることや,溶接部等の応力集中,溶接残留応力等の複雑な影響因子が絡むこともある。
 しかし,めっき割れや熱変形の現象は,製品の寸法,形状,構造,溶接方法,残留応力,浸漬速度,液体金属脆化等の種々考えられる要因が,単独あるいは複合的に関連して発生すると考えられる。したがって,設計ディテール,鋼材,浸漬方法などを適切に選べば実用的にめっき割れを防止できるものと思われる。
 本論文では複数の要因の中から製品の寸法,形状,浸漬速度に着目し,めっき割れや熱変形の原因を解明するための基礎的データを得ることを目的として急激な温度変化を伴う溶融亜鉛浸漬試験を行い,温度分布,熱ひずみの挙動を比較検討した。また,一次元熱伝導方程式解を計測温度の履歴曲線に一致させる最適化手法により逆算した熱拡散率κを用いて温度分布を推定する手法を提案した。
 推定した温度分布から三次元有限要素法により熱応力分布を求め,溶接部付近の熱応力の発生範囲を特定することにより,めっき割れの発生箇所を予想すると共に,小型と中型の溶接鋼板モデルの熱ひずみの挙動の違いを定性的に明らかにすることができた。


■主柱材の引張強度不足に対する補強方法(No.43)
概要
 既設鉄塔の架線条件変更や嵩上げ等に伴う強度検討の結果,部材およびボルトに強度不足が発生することがある。斜材や補助材であれば比較的容易に取り替えや補強ができ,また主柱材でも圧縮強度不足に対しては座屈補剛材の追加などで対応が可能であるが,引張強度の不足に対してはその対応が難しかった。
 主柱材が引張応力に対して強度不足となる場合の対策方法としては,断面積を増加させるために大きな断面積を持った部材に変更する方法,高強度の部材に変更する方法,あるいは発生応力を下げるために結構を変更する方法が考えられるが,部材の取り替えを伴う大掛かりな工事になる。そこで,主柱材の引張応力に対応する部材断面積の不足に対し,部材の取り替えを行わず,補強材を主柱材に沿わせて追加して対応する方法が採用されることがある。
 しかし,この方法による場合,既設主柱材と補強材との応力分担比が明確でなかった。
 今回,その応力分担比などを確認するために,部分モデルによる載荷試験を行い,補強方法としての妥当性を確認した。



■溶接鋼平板の急激な温度変化による熱伝導解析と熱応力分布(No.39)
概要
 鉄塔などの鋼構造物に急激な温度変化が与えられた場合,はじめに温度が加えられた部分とあとから温度が加えられた部分との間に温度差が生じ,部材内に非定常熱応力が発生する。また,溶接部が部材内に多く存在する場合には,応力集中により大きな引張応力が発生し,溶接部の残留応力とも合わせて不良発生の一因となる場合がある。
 このような急激な温度変化を鋼構造物に生じさせる一例としては溶融亜鉛めっきがあり,熱変形やめっき割れという現象が生じる場合がある。
 これまでの研究では,溶融亜鉛めっきによる大型構造物の熱変形や熱応力の変化等について基礎的研究が行われているが,温度変化や分布については明らかにされていない。そこで,著者等は急激な温度変化による鋼部材の溶接継手部における熱伝導および熱応力分布を三次元有限要素法で解析した。この解析結果を確認するため,試験体に急激な温度変化を生じさせる溶融亜鉛めっき浸漬試験を実施し,鋼部材の温度や熱ひずみの時刻歴応答を計測した。本解析手法によって得られた結果と試験結果の比較検討を行った結果,今回の解析モデルを使用した解析により,精度よい解析が可能であることを確認した。



■T継手を有する溶接鋼板の溶融亜鉛浸漬試験中における熱ひずみと温度変化(No.35)
概要
 溶融亜鉛めっきされた鋼構造物は,メンテナンスフリーで長期の防錆効果が期待でき,送電・無線鉄 塔をはじめ,建築・土木等の幅広い分野で採用されている。
 しかし,溶融亜鉛めっきされた鋼構造物の中には,めっきによる変形や割れが生じる場合がある。こ れは,鋼部材が常温から約440℃〜450℃の溶融亜鉛中へ浸漬するため,部材に急激な温度変化が与えら れ,先に浸漬した部分と後から浸漬される部分との間に温度差が生じ,部材内に非定常熱応力が発生す るために生じると考えられる。また,鋼の溶接継手部は応力が集中し易く,めっき時に引張熱応力が発 生し,溶接残留応力の影響をも合わせてめっき割れを起こす要因となる。
 これまでの研究では,大型の構造物を使用し,溶融亜鉛めっき時に発生する熱変形や熱応力の変化な どについての基礎的研究は行われているものの,温度変化・分布については明らかにされていない。そ こで,本論文では大型構造物の溶接継手部に着目し,T継手を有する小型の溶接鋼板モデルを製作し, 溶融亜鉛浸漬試験を実施し,熱ひずみと温度変化の時刻歴応答を計測するとともに,その計測結果と熱 応力解析結果等との比較結果を記す。



■高分子絶縁アームを用いた架空送電線
コンパクト化の技術開発
(No.26)
概要
 電気エネルギーの利便性から、電力需要は年々、増加の一途をたどるとともに、高密度化の傾向が強く なっている。今後、徹底した省エネルギーを行っても、21世紀中葉には現在の2〜3倍に達すると予測さ れている。そのため、高効率な発電技術の開発などによる発電能力の確保とともに、電力を需要地へ確実 に、かつ、効率よく送るため、電力輸送設備を大幅に増強する必要がある。
 現在、大都市中心部への電力供給は、地中送電線に依存している。一方、都市部やその周辺部に設置さ れる配電用変電所への電力供給は、150kV級以下の架空送電線、とりわけ66kVや77kVなどの60kV級架 空送電線が主に用いられている。しかし、これらの架空送電線の用地の確保は、種々の制約から年々、困 難になりつつある。
 当研究所では、このような状況に対処して電力輸送力の確保を図るため、技術革新が目ざましい高分子 絶縁材料技術の導入による、60kVから150kV級架空送電線コンパクト化の技術開発を推進している。以 下にこれらの技術開発の概要を述べる。



■高速載荷を受ける鋼構造圧縮部材の耐力に関する実験的研究(No.26)
概要
 鋼構造物に、地震や突風などの衝撃的な荷重が作用する場合の、鋼材および接合部の力学的性能を調べ るために、デンロ技報No.18,19では、鋼材の種類としては3種類、接合の種類として突合せ溶接、高 力ボルト摩擦接合および溶融亜鉛めっき高力ボルト接合の3種類の高速載荷実験結果を報告した。結果の 概要は以下の通りである。
(1)鋼素材の降伏点、引張強度およびひずみ硬化開始点のひずみは、
   ひずみ速度の上昇に伴い増加し、破断伸びはひずみ速度の上昇に
   伴い低下するが、高強度鋼ほどひずみ速度の影響は小さい。
(2)突合せ溶接接合部では、主な塑性変形が母材で進行し、
   ひずみ速度の影響は素材と同様の傾向を示す。
(3)高力ボルト摩擦接合部では、載荷速度の上昇に伴い、
   すべり荷重は低下する。
(4)溶融亜鉛めっき高力ボルト接合部では、載荷速度の上昇に伴い、
    すべり荷重は上昇する。

 デンロ技報No.24では、接合部を有する鋼構造架構が高速繰返し荷重を受けた場合に、架構の復元力特性 におよぼす載荷速度の影響を調べるために、高力ボルト摩擦接合および中ボルト接合された引張筋かいと 柱・はりから構成される鋼構造架構の高速載荷実験結果を報告した。結果の概要は以下の通りである。
(1)載荷速度の上昇に伴って架構全体の復元力は増加する。
   これは、節かいの降伏点がひずみ速度の増加に伴ない上昇することが
   主な要因である。
(2)筋かい端部の摩擦接合部は、載荷速度の上昇に伴ってすべり
   荷重は低下する傾向があるが、実験の範囲内では架構全体の挙動
   には大きな影響を及ぼさなかった。
(3)柱・はりの溶接部の亀裂は、単調載荷よりも繰返し載荷の試験体の
   方に顕著にみられた。また、静的載荷よりも高速載荷した方が、
   進展した亀裂の長さは大きかった。
 本研究では、ブレース部材などの座屈で破壊する部材を対象に、中心圧縮を受ける鋼構造物の座屈耐力 に対する載荷速度の影響を実験により調べた。



■鋼管鉄塔腹材波型継手の開発研究(No.24)
概要
 中空鋼管鉄塔の腹材は、腹材端部の仕口プレートを主材に溶接されたガセットプレートにボルトで締め 付けることによって接合されている。
 現在使用されている腹材仕口プレートには、次のようなものがある。
a)U字プレート継手
b)溝形プレート継手
c)十字プレート継手
 また、その他に、非応力材にまれに使用されるT字プレート継手やI字プレート継手などがある。
 U字継手は、構造偏心のない継手形状で強度的に優れた構造となっているが、逆に、仕口部分にガセッ トプレートを差し込む構造が組立施工面では欠点となっている。また、溝形継手は、仕ロプレートとガセッ トプレートを面合わせする構造となっているため組立施工上優れている。しかし、この構造は、構造偏心 を生じるためその偏心を考慮した断面形状が必要となる。さらに、十字継手は高強度の仕口耐力が必要な ときに使用される。このように各継手とも一長一短がある。
 最近は、組立施工性に対する現場の要望が大きいため、施工性がよい新しい鋼管鉄塔腹材継手の構造検 討の必要性が生じた。そこで、施工性を考慮した新型継手の開発研究に着手した。
 本研究では、新しい継手構造について単一部材による強度試験から始まり、平面モデル試験、実規模部 分モデル試験を行い、鋼管腹材仕口構造として十分な強度・耐力を備えていることを確認した。そこで、 その概要を報告する。



■高速載荷を受ける鋼構造架構の復元力特性に関する実験的研究(No.24)
概要
 鋼構造物が地震や突風など、瞬時の衝撃荷重を受けた場合、鋼材の力学的特性に及ぼすひずみ速度効果 を無視できないことが既往の砥究で報告されている。
 研究結果から、ひずみ速度効果により鋼材の耐力が上昇すると推測される。そのため、一般的な鋼構造 物においてはひずみ速度効果を無視した設計が行われているのが現状である。
 今回の研究では、接合部を対象とした高速載荷実験を行い、接合部では鋼材と異なるひずみ速度効果を 示すことを明らかにした。この結果、滑りを伴なうボルト接合部の履歴特性ではむしろ復元力特性を低下 させ、構造物に危険側の影響を及ぼすことが判った。
 本報では、ボルト接合部の挙動を考慮に入れた筋かい付鋼構造架構の復元力特性におけるひずみ速度効 果を実験によって調べ、載荷速度のボルト滑りに伴なう架構の復元力特性との関連性について考察する。



■鋼構造物の接合部への拡散接合の適用に関する実験的研究(No.22)
概要
 拡散接合は接合面に圧力を加えて加熱し、接合面の原子を互いに拡散させて接合する方法である。従来 のアーク溶接に代わる技術として鋼構造物の接合部へ拡散接合を適用できれば、接合部の信頼度がより向 上すると考えられる。そこで、送電用鉄塔鋼材で拡散接合の接合実験を行い、接合部の静的引張試験、接 合面の組織観察、硬さ試験および繰り返し載荷試験を行い、鋼構造物への拡散接合の適用の可能性を確認 するとともに今後の課題を抽出することができた。
 本報告は、デンロ技報17に繰り返し載荷試験を加筆した内容になっている。



■高速繰返し載荷を受ける鋼構造接合部の履歴特性に関する実験的研究(下)(No.19)
概要
 地震や突風などの大きな載荷速度を受ける鋼構造物の動的挙動は、部材よりも接合部の力学的性能で決 まるため、載荷速度が接合部の力学的性能に与える影響を把握することが重要と考えられる。そこで本研 究では、鋼素材および各種鋼構造接合部に高速繰返し荷重をかけたときの力学的性質の変化を実験的に調 べた。前報ではSS400からなる素材、突合せ溶接接合および高力ボルト摩擦接合についての実験結果を報 告した。本報では、SS400、SM490、SH590Pの素材および各素材からなる突合せ溶接接合部とF8Tの溶融 亜鉛めっき高力ボルト接合部についての実験結果を報告する。



■高速繰返し載荷を受ける鋼構造接合部の履歴特性に関する実験的研究(上)(No.18)
概要
 地震や突風などの大きな載荷速度を受ける鋼構造物の動的挙動は、部材だけでなく接合部の力学的性能 に支配されることが多いため、載荷速度が接合部の力学的性質に与える影響を把握することが重要と考え られる。そこで本研究では、鋼素材および各種鋼構造接合部に高速繰返し荷重をかけたときの力学的性質 の変化を実験的に調べた。今回報告する試験体はSS400の母材、突合せ溶接、高カボルト摩擦接合の3種 類であり、載荷速度で5〜35mm/sec、ひずみ速度で約5〜35%/secの範囲で実験を行なった。その結果 次のことがわかった。
 1)鋼素材の降伏点および引張強度はひずみ速度が5%/secから25%/secに増加すると2%および1% 程度上昇する。なお、約2%のひずみ振幅での繰返し載荷では、初載荷時以外はひずみ速度の影響を ほとんど受けなかった。
 2)突合せ溶接接合部では母材と同様の傾向が認められた。
 3)高力ボルト摩擦接合部では、摩擦限界荷重およびすべり荷重は載荷速度が5%/secから25%/secに 増加すると31%および12%程度低下するのが認められた。
 次号では鋼材としてSM490、SH590P、接合部として突合せ溶接接合部、溶融亜鉛めっき高カボルト接 合部および支圧せん断型の中ボルト接合部の高速載荷実験結果を報告する。



■送電用鉄塔材への拡散接合適用の可能性に関する実験的研究(No.17)
概要
 拡散接合は接合面に圧力を加えて加熱し、接合面の原子を互いに拡散させて接合する方法である。従来 の溶接に代わる技術として、送電用鉄塔の接合部への拡散接合を適用できれば、接合部の信頼度がより向上 すると考えられる。そこで、送電用鉄塔鋼材において接合実験を行い、接合部の強度と接合面の組織を確 認したところ、適用の可能性を見出すことともに今後の課題を抽出することができた。



■終局耐力向上鉄塔に関する研究(ニーブレス結構)(No.16)
概要
 送電鉄塔、無線鉄塔などに使われているダブルワーレン結構は軽量で高い剛性が得られる。しかし、主 柱材、斜材などの主要な部材の座屈によって崩壊するため、その後の復元力は大きく低下し、座屈後の変 形性能はほとんど期待できない。
 このような変形牲能を改善するため、ダブルワーレン結構にニーブレスと呼ばれる曲げ部材を追加した 新形式の二一ブレス結構を提案し、静的載荷実験によって良好な復元力特性と変形性能を確認した。
 本報では二一ブレス結構を送電鉄塔に適用した場合の弾塑性解析結果から得られた特性と効果を報告す る。



■鋼管鉄塔主柱材の改良継手の開発研究(下) (施工性試験、耐候性試験、実規模載荷試験)(No.13)
概要
 送電用中空鋼管鉄塔の主柱材継手方式は、これまでの多くの検討結果から、引張ボルト接合方式による 鍛造成形フランジが採用されている。
 しかし、この継手にも構造上の問題点があり、設計、製作、施工面で十分な配慮が必要である。
 これらの問題点を解消するため、基本構造から検討し直し、全く新しい継手構造を開発するため、次の 研究を行った。
 1)概念構造検討
 2)構造解析検討
 3)ボルト性能試験
 4)試験片による静的耐力試験および疲労耐力試験
 5)実規模試験体による組立施工性試験
 6)実規模試験体による耐力試験
 その結果、引張ボルト接合方式の鍛造フランジとは異なるタップねじによるせん断ボルト接合方式の継手構造を開発した。
 前報では、次に示す試験解析を通じ改良継手構造の基礎的な性能について報告した。
 1.序
 2.引張耐力の検討
 3.圧縮耐力の検討
 4.ボルト性能試験
 5.試験片による応力集中確認試験
 6.試験片による疲労試験
 これらの試験・解析結果から得られた結論を示すと次の内容がある。
 1)継手部圧縮耐力は、FEM解析結果から全体座屈、
  局部座屈とも充分な耐力があり、継手部構造は引張
  力によるせん断力で決定される。
 2)構造解析結果から決定した基本構造のタイプ別継手
  重量は、表−1に示すように鍛造フランジと比べ同等
  以下であった。
 3)タップ方式のボルトのせん断耐力、およびゆるみ発生
  限界は、ナット方式と比べ同等以上であった。
 4)タップ方式の継手部の引張耐力は、設計の降伏強度の
  1.5倍以上あった。
 5)タップ方式とナット方式の継手の疲労強度は、ほぼ同
  等であり、タップ厚をボルト径の1.0倍から1.2倍
  にしても疲労強度の変化は認められなかった。
 本報では、さらに次に示す実用上の問題に関する研究結果について述べる。
 7.実規模試験体による組立施工性試験
 8.試験片による耐食性試験
 9.実規模載荷試験
 10.まとめ
    謝  辞
    参考文献



■鋼管鉄塔主柱材の改良継手の開発研究(上) (概念検討、構造解析、ボルト試験、部分モデル試験)(No.12)
概要
 送電用中空鋼管鉄塔の主柱材継手方式は、これまで多くの検討結果から、引張ボルト接合方式の鍛造成形 フランジが採用されている。
 しかし、この継手にも構造上次のような問題点があり、設計,制作,施工面で十分な配慮が必要である。
1)継手ボルトは、引張ボルト方式としている。このため施工時におけるボルト締め付け管理が重要となり、  厳格な施工管理が必要となっている。
2)接合ボルト取付け位置が鋼管部に対して外側に取付けられるため、継手ボルトにテコ反力作用による二 次応力が付加される。
3)フランジ部と鋼管部が全て一体構造となっている本方式では、大口径鋼管の場合、運搬面から単体重量  が制限され、必要以上にフランジ箇所が増える。
 一方、近年送電用鉄塔は送電線の長距離大容量化に伴い大型化してきている。このような情勢から、中空 鋼管鉄塔の主柱材継手方式を基本構造から改良し、信頼性が高く、経済的な方式を開発することが望まれて いる。
 これらの問題点を解消するため、中空鋼管鉄塔の主柱材継手構造について基本構造から検討し、全く新し い継手構造を開発することを目的として、次の研究を行った。
 1)概念構造検討
 2)構造解析検討
 3)ボルト性能試験
 4)試験片による静的耐力試験および疲労耐力試験
 5)実規模試験体による組立施工性試験
 6)実規模試験体による耐力試験
その結果、ボルト締付け方式を従来のナットによる締付け方式からタップねじによる締め付け方式にする ことで、引張ボルト接合方式からせん断ボルト接合方式の継手構造を開発し、実用化する目処を得たので、 その概要を本号および次号で報告する。




■溶融亜鉛めっきが施された中ボルト接合部の剛性に関する実験的研究(No.11)
概要
 送電用鉄塔や通信用鉄塔のような塔状鋼構造物は、その規模にかかわらず一般に溶融亜鉛めっきが施され ているため、溶接接合や高力ボルト接合は使用されず普通ボルト接合が使われている。また接合部にも溶融 亜鉛めっきが施されているため、ボルト孔の加工公差は高力ボルト接合の場合よりも送電鉄塔の場合、0.5mm 程度大きい。
 さらに支圧・せん断力による応力の伝達を仮定しており、締付け部の摩擦力を増すための特別な処理は施 されていない。このため接合部の剛性を十分に高めることが難しく、その拘束状態は摩擦接合部や溶接接合 部とは異なるものと考えられ、接合部の剛性を無視した解析結果と応力変形挙動に関する実験結果とに大き な差があることが報告されている。
 このような溶融亜鉛めっきが施された普通ボルト接合部の剛性に関する研究は少ない。また、最近では塔 高が100mをこえる塔状鋼構造物にも普通ボルト接合が使われている。このような現状をふまえ本研究では、 素材および接合部の引張載荷試験結果に基づいて、溶融亜鉛めっきを施した、支圧・せん断型の普通ボルト 接合部の剛性の評価方法に関する新しい提案を行う。
 このような接合部の剛性が架構全体の応力変形挙動に及ぽす影響に関して、本研究で明らかになった点に ついて以下に述べる。

 1) 支圧・せん断型ボルト接合部の荷重変形関係より、初載荷時の摩擦力が支配的な荷重領域での荷重変形関係は線形であるが摩擦力以上の荷重が加わると、荷重が一定のままボルト孔のギャップ部のずれに相当する変形量だけが増し、その後の荷重変形関係は降伏荷重まで直線関係を示すことを明らかにした。また、接合部の降伏荷重の10〜25%でボルト孔のギャップ部でずれが生じ、その後の接合部の弾性剛性は構成材により定まり、支圧・せん断面が1面の場合は母材の剛性の20%程度、2面の場合は10%程度しかないことを明らかにした。

 2) 接合部の弾性剛性を求めるために、接合部をボルトと板との支圧部に生じる反力を考慮した2次元モデルに置き換え、2次元弾性論に基づく数値解析法を提案した。

 3) 接合部での応力変形状態を調べるために、鋼板部を面内剛性と曲げ剛性を重ね合せた剛性をもつ2次元の板要素で、またボルト部を可変節点固体要素で置き換えた、微小変位弾性論に基づく有限要素法を提案した。

 4) 接合部の弾性剛性と母材の弾性剛性との比で求められる半剛係数により、複雑な応力変形挙動を考慮せずに接合部の弾性剛性を表すことができることを示した。

 5) 静的引張試験結果より求めた変形挙動から、ボルト接合部の剛性は母材の剛性よりも低いため、層問変位はボルト接合部からなる架構の場合、大きくなることを明らかにした。

 6) 静的引張試験結果より求めた弾性限度内の応力挙動から、接合部の剛性により各構成材の応力は異なることを明らかにした。

 7) 静的引張試験結果から塔体部の結構をワーレン結構からK結構にすると、架構の弾性剛性、および最大耐力は増大することを明らかにした。

 8) 弾性限度域内での応力変形挙動は接合部の剛性の影響を受けるため、図式解法による現在の設計方法では、安全側の設計応力が求められない場合があることを示した。このため、2次元弾性論から求められる剛性を持つ弾性支承を接合部に仮定した線形剛性Matrix法を提案し、接合部の拘束条件をピン接合、あるいは剛接合に仮定した場合の解析結果よりも、正確に支圧・せん断ボルト接合からなる架構の弾性剛性、および弾性限度域内での応力変形挙動を予測できることを明らかにした。



■高速載荷時の鋼構造接合部の力学的挙動に関する実験的研究 (載荷速度の影響を考慮した接合部の力学的特性)(No.10)
概要
 前報では塔状鋼構造物における最危険断面の1つと考えられる接合部に注目した静的、および高 速引張載荷実験結果について報告した。本研究ではこのときに得られた実験結果から、応力ひずみ関係に 関する定量的な考察を加えたのでその概要を述べる。
 1) 載荷速度が増えるにつれボルト接合部よりも母材の降伏応力と最大応力が向上する。

 2) 高速荷重載荷時の母材や接合部の力学的特性を表わすため、実験結果から降伏応力と最大応力に関する影響係数と応力度速度との関係を対数則で表わした。

 3) 対数則で表わされた応力度速度と影響係数との関係を使い、母材および接合部の応力ひずみ関係をバイリニア型で表わした。

 4) 母材あるいは接合部に生じる応力と載荷速度との関係を、Karmanが提案した一次元理論に基づく関係で表わした。

 5) 接合部の臨界衝撃速度から2面せん断型ボルト接合、溶接接合および1面せん断型ボルト接合の順でより速い載荷速度を持つ高速荷重を伝達できることがわかった。

 6) 母材と接合部の臨界衝撃速度を比較することにより、架構全体が伝達できる載荷速度の限界値は接合方法によって定まることを示した。



■鋼管鉄塔に生じるカルマン振動に関する実験的研究(下) (繰返し荷重載荷試験、実規模試験体による振動試験とまとめ)(No.9)
概要
 中空鋼管からなる送電鉄塔で、組立て完了後風速が7〜8m/secになったとき、特定の部材が大きく振動 する現象が観測された。これはカルマン渦の発生周波数と部材の固有振動数が一致して共振状態となり、 振動が発生したものと考えられる。
 そこで原因を究明し対策を立てるため現地での観測、減衰自由振動試験、静的荷重載荷試験、繰返し荷 重載荷試験、および疲労耐力の確認試験を行った。本研究ではこれらの試験概要とその結果を報告すると ともにカルマン振動に対する安全性と不安感および経済性から許容最大振幅を定め、表1に示す腹材の部 材長制限を決定した。
 前号に1〜4章まで記載しているので、本号では5〜7章を記す。

1章 はじめに
2章 現地での測定
3章 減衰自由振動試験
4章 静的荷重載荷試験(以上 前号に記載)
5章 繰返し荷重載荷試験
6章 実規模試験体による振動試験
7章 まとめ
謝辞
参考文献



■鋼管鉄塔に生じるカルマン振動に関する実験的研究(上) (現地での測定、減衰自由振動試験、静的荷重載荷試験)(No.8)
概要
 中空鋼管からなる送電用鉄塔で、組立て完了後風速が7〜8m/secになったとき、特定の部材が大 きく振動する現象が観測された。これはカルマン渦の発生周波数と部材の固有振動数が一致して共振状 態となり、大きな振幅で振動が発生したものと考えられる。
 そこで原因を究明し対策を立てるため現地での観測、減衰自由振動試験、静的荷重載荷試験、繰り返 し荷重載荷試験、および疲労耐力の確認試験を行った。本研究ではこれらの試験概要とその結果を報告 するとともにカルマン振動に対する接合部の安全性と振動時の不安感から許容最大振幅を定め、それに 基づいた強度検討方法を提案する。
 なお、本研究は次のフロー・チャートに示す内容で構成されており、本号では1〜4章を、次号では 5〜7章を記す。

1章 はじめに
2章 現地での測定
3章 減衰自由振動試験
4章 静的荷重載荷試験
5章 繰返し荷重載荷試験
6章 実規模試験体による振動試験
7章 まとめ

参考文献
謝辞



■鋼管トラスにより構成される塔状鋼構造物の復元力特性に関する実験的研究(No.5)
概要
 近年の電力需要や通信量の増大にともない、大型化する送電線やアンテナ類を支持する塔状鋼構造物 の設計がより合理的に行えるための一つの方法として、構造物の崩壊性状を改善する方法を調べた。
 今回の研究では、鋼管で構成された2パネルの立体トラス骨組からなる、溶接接合試験体とボルト接 合試験体に単調あるいは正負交番漸増繰返し荷重を加え、塔体部の初期剛性・復元力特性、及び崩壊機 構を把握した。これらの実験の結果から、塔状鋼構造物の初期剛性や最大耐力、及び復元力特性を改善 するためには次のような方法が考えられる。

 1) 初期剛性を高めるためには、接合部の剛性を高め、ボルト孔のギャップによるすべりを少なく し、さらに、主柱材に開角(通常、”転び”と呼ばれている。)を設ければ効果がある。なお、節間水 平材を装入しても、顕著な初期剛性の変化は認められなかった。また、接合部が”ボルト締め接合”の 場合は、繰返し荷重が加わると、初期剛性が高まる傾向にあった。
 2) 塔状鋼構造物の最大耐力と最大変位量を増大させ、一部の部材がダメージをうけてもすぐさま 崩壊しないようにするためには、主柱材よりも斜材の座屈が先行するような部材で構成し、斜材の復元 力特性が高くなるような高張力鋼、断面形状、構造形式及び接合方法を使えば効果がある。なお、斜材 の支持点部の拘束条件は、ボルト接合形式の場合、ピン支持と固定支持の中間の拘束条件で、支持点部 の拘束度は比較的高かった。



■高速引張力に対する山形鋼接合部の力学的特性に関する実験的研究(No.4)
概要
 鋼構造物が塑性域に至る大変形を受けた場合、あるいは弾性域内の荷重に対する構造安全性を検討す るため、実験や解析的手法による部材や接合部の履歴挙動に関する研究がこれまで数多くなされてきて いる。
 現在、これらの研究結果にもとづいて、無線通信用のアンテナ類や電力を供給するための電線類を支 持する溶融亜鉛めっきが施された塔状鋼構造物の安全性が検討されている。しかし、検討方法の基盤と なっている多くの研究は静的な載荷過程における素材や骨組の力学的特性を把握したものである。
 実際の塔状鋼構造物には地震、変動風や雪の脱落による電線類の張力変動、あるいは安全用付帯設備 には落下荷重が加わる。このような短時間に変動する高速荷重に対しても静的実験から得られた素材や 接合部の力学的特性をそのまま適用できるかどうかは明らかにされていない。
 このため、今回は前回の実験で得られた平板による接合部に関する高速載荷時の基礎的な力学的特性 をさらに研究し、どの程度の載荷速度から接合部の力学的特性が変化するかを明らかにした。
 さらに、実際の塔状鋼構造物に使われている山形鋼やガセット・プレートによる素材及び各種のボル ト接合部に関する高速載荷実験を行い、その力学的特性を明らかにした。
 なお、今回の実験で採用した最大の載荷速度は、応力度速度で250ton/cm2/sec、歪速度で160%/sec であった。
 以上のような高速載荷実験より、次の結果が得られた。
 1) 歪速度が0.01%/sec以上の載荷域より鋼材の力学的特性は歪速度の影響を受け、10%/sec 以上の載荷域に入ると降伏応力度への影響が顕著になる。
 2) 高速載荷域での平板及び山形鋼の降状荷重は静的載荷時に比べ1.2倍、最大荷重は1.1倍程度 上昇する。
 3) 高速載荷域での支圧・せん断型ボルト接合部の降状荷重及び最大荷重は、静的載荷時に比べ1.1 倍程度上昇する。
 4) 高速載荷域での引張接合部の降状荷重は静的載荷時の1.1倍程度上昇するが、最大荷重は90% 程度低下する。
 5) 高速載荷域でのボルト接合部の継手効率は50〜80%あったため、塔状鋼構造物に高速荷重が 加わった場合、構成部材よりも接合部が先行して破損する可能性がある。



■ボルト接合部の剛性を表す『半剛係数』に関する実験的研究(No.2)
概要
 最近の通信回線及び電力需要の増大に伴い、電力線やアンテナ類の支持物として建設される塔状鋼構 造物や屋外鉄構の構造規模はここ十数年の間に飛躍的に巨大化している。
 このような構造物の設計は主に昔ながらの図式解法で応力解析がなされている。しかし、塔状鋼構造 物や屋外鉄構は、通常、高次の不静定立体骨組構造であるため、実際の応力伝達機構は図式解法で得ら れた結果とはかなり異なっている。軽微な構造規模の塔状鋼構造物や屋外鉄構の設計を行う場合は安全 率他で、解析誤差を補うことができるが、大規模な構造物を設計する場合、支持物としての安全性を確 保するうえで、また、経済的な構造物を追求するうえで、解析誤差を無視することはできない。
 このような問題点を解決するために、現在、Matrix解析法が設計の一部に導入されている。しかし、 現在、使われているMatrix解析法は、まだ、塔状鋼構造物や屋外鉄構の応力解析法として十分に確立 されておらず、図式解法の一部を補うために使用されているにすぎない。さらに、図式解法とMatrix 解析法のどちらの応力解析結果をも満足するように設計されるため、構造物の重量が過剰になる傾向に ある。
 Matrix解析を行う場合、塔状鋼構造物や屋外鉄構を構成する部材は、建物とは異なり溶融亜鉛めっ きが施こされ、六角ボルトを使用したせん断型のボルト接合方式が採用されているため、接合部の剛性 の評価方法を定める必要がある。
 そこで、本書では塔状鋼構造物や屋外鉄構のMatrix解析を行う場合に必要な、接合部のモデル化の 方法について検討を行う。なお、通常の設計では、設計荷重として定められた外力に対して、構造物を 構成している全ての部材が弾性限度域内に納まっていればよいため、今回本書で使用するMatrix解析 法は”線形”の範囲にとどめる。
 本書では3種類の実規模の静的な載荷実験結果より、ポルト孔のギャップ部のずれによる影響を”初 期歪”と仮定し、ガセット・プレートやボルトのような接合部の構成材相互の影響により定まる剛性を、 ”半剛係数”と仮定して、線形Matrix解析を行い、解析結果と、測定結果との整合性がよいことを明 らかにする。
 また、次報では今回の検討結果をふまえ、塔状鋼構造物の塔体部と送電鉄塔の腕金突出部の応カー変 形関係、及び塔状鋼構造物の基礎の不同沈下が上部構造におよぼす影響について検討を行う。ここでは、 実規模の載荷試験と、今回提案した”初期歪”、及び”半剛係数”を使った線形Matrix解析結果との 比較を行うことにより、より安全で経済的な鋼構造物を設計する方法を紹介する予定である。



■溶融亜鉛めっきを施した塔状鋼構造物の接合における高速載荷時の力学的挙動に関する実験的研究(No.1)
概要
 近年、通信回線の発達や、電力需要の増大に伴い、溶融亜鉛めっきを施こした60m以上の大規模な鉄 塔が多数使用されている。しかし、通常の建物と較べ、その構造安全性を評価することを目的とした、 構成部材や接合部に関する研究が少なく、その研究も、静的な載荷過程における素材や骨組の力学的特 性に関する内容がほとんどである。
 しかし、実際の鉄塔には次に記すような様々な動的荷重が加わっていると考えられる。
1) 落下時にガイドレールのような安全設備を支持する部材やステップボルトのような安全設備に加 わる衝撃的な荷重
2) 変動風、風の息等のような風による変動荷重
3) ギャロッピイング現象やバッフェティング現象により、電線引留部や鉄塔本体に加わる急激な変 動荷重
4) 鉄塔本体やその接合部に加わる地震波のような変動荷重
 現在の設計基準では歪速度の影響を全く考慮されていないが、短時間に変動荷重が加わる場合と、静 的荷重が加わる場合とでは、素材や接合部の材料特性は異なる特性を示すことが予見される。今回これ らの問題を解決するため、黒皮およびめっきを施こしたSS41鋼素材、突合せ溶接接合、単せん断型ボ ルト接合及び複せん断型ボルト接合形成をもつ各種試験体を使って、高速引張力載荷実験および静的載 荷実験を行った。