実規模試験
 
■汎用型仮腕金の紹介(No.68)
概要

鉄塔の包み込みによる元位置建替工事などで長期間の停電工事が困難な場合,仮設工事用腕金を用いて電線を支持し,工事を実施している。

これまで,仮設工事用腕金として個別設計の仮腕金や円形鋼管仮腕金を使用してきた。しかし,個別設計の仮腕金は高コストであり,また,円形鋼管仮腕金は強度面で適用範囲が限定的である上に,円形断面であるため,作業員が上面を歩行しにくいなどの課題があった。

これらの課題を解決すべく,角形鋼管を用いた汎用性の高い仮腕金を開発し,実際の鉄塔建替工事に採用したので,その開発状況および施工例について紹介する。

なお,今回開発した汎用型仮腕金には以下の特徴がある。

  • @既設鉄塔への孔あけや切断など現地加工の必要がなく,施工性がよい。
  • A設置対象鉄塔を東北電力株式会社の66kV標準鉄塔(62S1型および62S4型)としており,適用範囲が広い(汎用性が高い)。
  • B1部材あたりの質量は40kg以下であり,人力での運搬が可能である。
  • C重量低減と安全性向上のため,水平ロープを手摺りとし,仮腕金主材(角形鋼管)を足場としている。
 
■北斗今別直流幹線鉄塔の非線形解析と載荷試験(No.62)
概要

現在,北海道と本州間には電源開発株式会社殿の60万kWの連系設備がある。北海道電力株式会社殿では,この既存の連系設備の点検や,将来の設備更新においても北海道の電力安定供給を実現するため,2014年4月に北海道の北斗市と青森県の今別町を直流の送電線で結ぶ北斗今別直流幹線の工事を開始した。

この北斗今別直流幹線鉄塔は,通常の交流の送電用鉄塔に比べ長大な腕金形状となることに加え,鉄塔によっては架線工事の工程上,片腕金引留状態で越年させる必要があるため,ねじり力によって発生するボルト接合部のすべりにより腕金部先端に大きな変位が発生することが懸念された。そのため,すべりによる残留変位が懸念されるボルト接合部の摩擦力を増加させる対策を行い,鉄塔縮小モデルでの載荷試験と非線形解析を実施し,解析値と実物の整合性を評価するとともに,対策効果の確認を行った。

 
■琴平実規模試験場の紹介(No.57)
概要

当社が香川県三豊市に保有する琴平実規模試験場(以下,実規模試験場)では,鉄塔などの実規模試験体に対して載荷試験を行うことができます。したがって,新しい構造形式の鉄塔などには,実規模試験場を使用することで,実規模試験体に荷重を載荷して,部材に発生する応力や変形状態を確認することができます。また,このような実規模載荷試験以外にも,建方工事の施工性,装置などの性能,付帯設備の機能などの確認や新しい工事方法の検証などにも使用されています。

今回は,当社の実規模試験場を使用して,どのような試験が行えるかを過去の試験実績と合わせて紹介します。


■増設基礎を用いた嵩上げ工法の開発(No.42)
概要
 架空送電線の線下問題(建築物・樹木等との離隔不足)の設備対策として,既設鉄塔と基礎の強度に裕度がある場合は嵩上げで対応し,裕度がない場合は鉄塔建替で対応している。
 しかし,一層のコスト低減を図る観点から,強度に裕度がない場合でも既設設備(鉄塔やその基礎)を最大限に活用するために,嵩上げに伴う強度不足を新たな基礎に負担させる工法を開発した。
 187kV阿南幹線鉄塔嵩上げ工事では,必要な高さの嵩上げを行うと既設基礎が強度不足となるため,この既設設備を最大限に活用した嵩上げ工法を採用した。
 今回,増設基礎を用いた嵩上げ工法の採用に当り,既設基礎と増設基礎への荷重分担などの性能を実証するために,実規模部分モデルによる静的載荷試験を行い妥当性を確認した。
 また,増設基礎は,現地が山間地で資機材の運搬が困難なこと,狭い場所での作業となることから,高耐力マイクロパイル工法を採用した。


■中野支線 鋼管単柱の実規模載荷試験(No.25)
概要
 近年、市街地およびその周辺では用地不足により、既設送電線の建替工事において新しい鉄塔用地の 確保が非常に困難な状況になっている。
 一方、既設鉄塔用地を利用した建替は、周辺環境条件、敷地面積等より、在来の工事方法では困難な 場合が多い。また、建替工事では仮線路が必要となる場合があるが、そのための用地確保も困難であり、 多くの費用と労力が必要となる。
 66KV中野支線6鉄塔の建替工事では、既設鉄塔用地の範囲内で仮線路を施設せず鉄塔の元位置で 建替を行った。まず、既設四角鉄塔の中央に鋼管杭基礎を施工し、既設塔体内に鋼管単柱を地上からせ り上げて組立を行い、その後、片回線交互の設備停止で電線を新設鉄塔に移線し、移線完了後、既設鉄 塔を撤去する工法を採用した。
 鋼管単柱は通常の四角トラス鉄塔に比べてたわみ量が大きいため、現地施工に先立ち、鋼管単柱の応 力、変形挙動および振動特性を実規模試験により確認した。



■国内の100万V送電用鉄塔に匹敵する規模の海外向鉄塔に関する実規模試験の概要(No.5)
概要
 KUWAIT向のD60型鉄塔は、ACSR410mm2×4導体を使用した300KV2回線の重角度鉄搭で あり、鉄塔に加わる水平力及び基礎反力は国内の100万V2回線の直線鉄塔に匹敵する。今回は、現地 での施工性と経済性を考慮し重量軽減のための複合ダブルワーレンの採用、はさみ板形式のX断面材の 採用等の特殊構造を採りいれた。
 このような特殊構造を採用したため、設計時に想定した外力を実規模の試験体に載荷し、その結果か ら、今回設計を行った送電用鉄塔の終局耐力と構成部材に生じる応力の挙動を把握した。特に、純粋な ねじり力を載荷して応力測定を行なった結果、その実験値は慣用解析手法の値とよく一致するため、慣 用解析手法を応力解析法として採用できることが確認できた。


■高速引張力に対する鉄骨骨組構造物の応答性状に関する実験的研究(No.3)
概要
 地震や変動風、着雪の脱落や工事中に生じる変動張力と云った荷重は、いずれも短時間の問に荷重の 大きな変動が生じる。このため、無線通信回線のアンテナ類や送電線等を支持する鋼構造物にこれらの 変動荷重が加わった場合の応答解析を行う際に、通常の静的な設計に必要な設計条件とは別に、固有周 期や減衰定数などの動的な設計に特有な設計要因の考慮が必要となる。
 最近改訂された建築基準法には、これらの動的な要因を反影した設計を行うために、固有周期や加速 応答倍率等を求める簡便な方法が定められている。
 しかし、建築基準法での設計は通常、鋼、コンクリート、高力ボルト等で構成された建物を対象とし ており、鋼とせん断型のボルトで構成される鋼構造物に、それをそのまま適用することは難しいと考え られる。
 また、前報で紹介したように、高力ボルト類が使用されている建物とは異なり、比較的、剛性の乏 しいせん断型のボルト接合部で構成されたアンテナ類や送電線類を支持する鋼構造物は、変動荷重の大 きさと載荷時間で定まる歪速度の影響を受けやすいと考えられる。
 これまでに筆者らは、激しい振動が加わった場合の鋼構造物を構成する素材の挙動について、実験的研 究を行なってきた。今回は、近年の通信回線や電力需要の増大に伴い、大型化するアンテナ類や電線類 の支持用鋼構造物に激しい振動が加わった場合の構造物の応答性状について検討を行なった。
 今回の試験では、前報と同様歪速度の影響を検討するために、高速引張力を実規模の門型の鉄骨骨組 構造物に載荷し、接合部の構造が溶接構造の場合とボルト締め構造の場合とを比較することにより、接 合部の剛性が構造物の振動性状に及ぼす影響を調べた。また、試験体をワイヤーロープでつないだ場合、 及び試験体を組み合わせた場合の振動測定を行うことにより、試験体が連成系になった場合の振動性状 の変化についても検討を行なった。以上の試験を行った結果、次のことが判った。
 1) 今回行った程度の高速引張力の場合、歪速度の影響により、載荷部を構成する部材の歪量及び構 造物全体の応答は、歪速度を考慮しない場合よりも大きくなる傾向にある。
 2) 加力直後の強制振動域と減衰自由振動域の減衰性は異なる。また、架渉線の重量と構造物の重量 の大きさにより、架渉線が構造物の減衰性に及ぼす影響は異なる。
 3) 構造物の固有周期及び高速引張力載荷時の応答倍率を求める一般式が提案できた。